
ヴェリタ行政書士法人代表
原﨑 真実
行政書士
医療・介護・福祉でお役に立ちたい行政書士。医療法人で受付・クラークを経験。医療法人・歯科医院のサポートをしています。スタッフの一員になって想いを共にし、地域医療を支えていきたい行政書士です。二人の息子を持つ母であり、次男は医療的ケア児。 医業経営研鑽会正会員 日本医療法務学会正会員
「そろそろ医療法人にした方がいいのだろうか?」
「法人化したら今のままのクリニックと何が変わるの?」
「個人で開業している状態と医療法人で何が違うの?」
「医療法人設立は手続きが大変そうで不安……」
開業医の先生方から、こうしたお声をよく耳にします。
医療法人の設立は、節税や事業承継、分院展開といった将来的な経営に向けた選択肢として有効ですが、医療法や非営利性の原則、定款・登記・理事構成など、一般の法人とは異なる特徴が多く、「制度の基本」を正しく理解しておくことが欠かせません。
この記事では、医療法人設立に関心のある先生方に向けて、
・医療法人制度の基礎知識
・法人化によるメリット・デメリット
・設立のタイミングと判断基準
・実際に必要な準備と注意点
などを、医療の行政書士の視点から、できるだけわかりやすく解説します。
「法人化を検討しはじめたばかり」という段階の方でも、読み進めるうちに、次に何をすべきか、誰に相談すればよいかが見えてくるはずです。
医療法人設立とは?仕組み・特徴・個人開業との違いをわかりやすく解説
「医療法人」とは、医師が法人格をもって診療所を運営できる非営利の法人であり、医療法第39条以下の規定に基づいて設立されます(※医療法|e-Gov法令)。
個人で開業しているクリニックとは異なり、法人として診療所を運営することで、経営の安定性や継続性を高めることができます。
目次
個人でクリニックを開業している場合、その医院は医師個人の財産であり、経営者が変わると事業の承継が難しくなります。
一方、医療法人は法人格を持つため、「理事長が交代しても法人は存続」するという特徴があります。これは将来的な事業承継や分院展開において大きな強みとなります。
また、個人診療所では所得税が課税されますが、医療法人になると法人税の適用となり、税務の設計や利益の分配ルールが大きく変わることも特徴です。
医療法人には「医療法人社団」と「医療法人財団」がありますが、現在新たに設立されているほとんどは「医療法人社団」です。
医療法人社団は、「人(社員)」の集まりとして設立され、理事会・社員総会の仕組みによって意思決定が行われるのが特徴です。
一方、医療法人財団は、寄附によって作られた財産をもとに運営される法人です。
医療法人は、利益を出すことが禁じられているわけではありませんが、その利益を理事や出資者などに分配することは禁止されています。これがいわゆる「非営利性の原則」です。
理事長や家族が職員として法人に関わり、適正な報酬を受け取ることは問題ありません。
詳しくは、厚生労働省が公開している「医療法人制度の概要」でも解説されています。
この点を誤解していると、「法人化しても自由に利益を使えない」と感じるかもしれませんが、経営上の裁量は確保されており、むしろ税務や承継の観点での利点が大きいのが実情です。
医療法人の設立には、法的な要件や行政手続きの煩雑さがある一方で、経営・税務・将来の承継といった多くの面でメリットがある選択肢です。
ここでは、医療法人化によって得られる代表的なメリットと、注意すべきデメリットを整理してご紹介します。
医療法人は、理事長が交代しても法人格が継続するため、将来的な事業承継がスムーズになります。
たとえば、親から子への承継、第三者への引き継ぎを想定した際に、個人開業よりも法人形態のほうが適しています。
医療法人になることで、複数の診療所(分院)を持つことが認められます(都道府県の認可が必要)。
個人開業では1医師=1診療所に限られるため、法人化することは拡大戦略の前提条件とも言えます。
医療法人になると、所得税ではなく法人税が適用され、節税のための報酬設計や退職金準備などが可能になります。
また、給与所得控除の活用、家族への役員報酬の適正化などにより、手元資金の最適化を図ることも可能です。
医療法人では原則として常勤職員に社会保険の加入が義務づけられるため、スタッフの福利厚生の面でも安心感が高まります。
採用活動においても「医療法人化している」ことは信頼材料になることがあります。
医療法人には、定款に従って理事会・社員総会の開催や議事録の整備が義務づけられています。
こうした形式的な運営に対する負担を感じる方もいるかもしれません。
医療法人は非営利法人のため、事業で得た利益を出資者や理事に配当することはできません。
報酬や退職金、必要経費の形で適正に処理することは可能ですが、「自由に利益を引き出せる」仕組みではない点に注意が必要です。
医療法人が解散する際には、残余財産は国や都道府県に寄附しなければならないと定められています。
個人で保有していた資産の自由度とは性質が異なるため、あらかじめ理解しておくことが重要です。
このように、医療法人化には多くの利点がありますが、自由度が減る部分や制度的な制限もあるため、「設立ありき」ではなく、目的や将来像に応じて慎重に判断することが大切です。
医療法人の設立には一定の要件や準備が必要ですが、目的やタイミングが合えば、経営上の大きな力になる選択肢です。
法人化を検討する際には、「どのような場面で設立を考えるべきか」を知っておくことが、スムーズな意思決定につながります。
ここでは、医療法人設立を具体的に検討しやすい典型的なタイミングをいくつかご紹介します。
個人開業では、1人の医師が管理者として運営できる診療所は原則1か所に限られます。
そのため、2つ目以降の診療所(分院)を開設するには、医療法人である必要があります。
すでに開業して一定の患者数やスタッフが確保できており、「次の拠点を作りたい」「他エリアにも展開したい」と考えるタイミングは、まさに法人化を検討する好機です。
将来的にお子さまや親族、信頼できる医師に事業を承継したい場合にも、法人格があったほうがスムーズに引き継ぐことが可能です。
個人開業では、承継のとき、開設者の変更という手続きはありません。つまり、今のクリニックを廃止することになります。
医療法人であれば、理事長が交代しても法人としての診療所運営は継続可能なため、承継者にとっても負担が少なく済みます。
クリニックの経営が安定し、手元に残る利益が増えてきたと感じる頃には、税務や資金管理の観点から、法人化を検討する価値が高まります。
医療法人化することで、
・所得を役員報酬とし、法人の内部留保金を増やすことができる
・給与所得控除や退職金の活用が可能になる
・法人税率の適用で税負担の調整がしやすくなる
など、個人事業では難しい税務戦略が取れるようになります。
このように、将来を見据えた成長・承継・税務戦略のいずれかに該当する場合、医療法人の設立は有効な選択肢となります。
迷われている段階でも、早めに専門家に相談しておくことで、余裕をもった準備が可能になります。
医療法人の設立を目指すには、あらかじめ一定の基準をクリアしておく必要があります。
また、申請から認可までをスムーズに進めるためには、事前に準備すべきポイントを押さえておくことが大切です。
医療法人を設立するためには、医療法や各都道府県の運用基準に基づき、次のような基本的な要件を満たす必要があります。
医療法人の設立をスムーズに進めるには、以下のような書類や手続きを段階的に整えていく必要があります。
設立時に提出する「定款(ていかん)」には、法人の名称・所在地・目的・役員構成・事業年度などを明記します。
また、理事や監事を誰にするか、役員の任期をどう設定するかなども早めに決めておく必要があります。
過去の確定申告書をもとに、法人化に十分な経営実績があることを証明する必要があります。
また、拠出する設備資産や賃貸物件の契約内容、不動産の登記簿なども準備対象となります。
都道府県によっては、事前に説明会への出席や、オンライン資料の確認が義務づけられていることがあります。
例:東京都では、設立希望者に対して「設立概要資料の確認」が必要とされています。
こうした準備を的確に進めていくには、医療法人制度の概略資料や各自治体の実務運用に精通した行政書士のサポートが非常に有効です。
定款作成・財産資料や施設関係資料の整理・事前相談から認可申請まで、専門家の関与によって時間や労力を最小限に抑え、安心して申請を進めることができます。
医療法人の設立認可が下りた後も、運営をスタートさせるためには、複数の重要な手続きが必要です。
ここでは、設立後に行うべき代表的な手続きや提出先について、流れに沿って整理します。
設立認可書の交付を受けたら、2週間以内に法務局で法人の登記申請を行う必要があります。
この手続きによって、医療法人は法律上「成立」したことになります。
登記には、認可書・定款・設立時役員の就任承諾書・議事録などが必要となり、申請内容に不備があると登記が遅れるおそれもあるため、慎重な準備が求められます。
登記申請は、司法書士に依頼して進めるのが一般的です。
設立登記が完了した後は、都道府県に対して「登記完了届」を提出します。
これにより、設立手続きがすべて完了したことを行政側に正式に通知することになります。
書類の提出先や様式、必要書類は都道府県ごとに若干異なるため、事前の確認が重要です。
法人としての活動を開始するにあたり、次のような機関にも届出が必要となります。
・税務署:法人設立届、青色申告承認申請書など
・都道府県・市町村:法人設立届出書(地方税関連)
・年金事務所:社会保険の新規適用届、被保険者資格取得届など
税務関係は、税理士が担当、年金関係は社労士が担当して進めることが一般的です。
医療法人開設の診療所となる場合、個人名義で開設していた診療所を一度「廃止」し、法人名義で新たに「開設」する手続きが必要です。
この際、保健所での実地検査や、開設許可のタイミング調整などが求められ、スケジュール管理が非常に重要になります。
最後に、法人として診療報酬の請求を行うには、厚生局に対して保険医療機関指定の申請が必要です。
診療所の開設者を院長個人ではなく、医療法人とするための手続きです。
このように、設立後も多くの実務手続きが控えており、登記・税務・保健所・厚生局と複数の行政機関にまたがる対応が求められます。
行政書士が中心となってスケジュール管理をしつつ、税理士・社労士・司法書士と連携することで、法人化後の重要な手続きを円滑に進めることができます。
医療法人の設立は、単に書類をそろえるだけではなく、医療法に則る都道府県ごとの審査に基づき、様式や記載内容まで含めて、正確に整える必要がある複雑な手続きです。
そのため、制度や現場実務に精通した行政書士に依頼することで、次のような大きなメリットが得られます。
医療法人の設立申請では、定款・議事録・財産目録・診療実績資料など、多岐にわたる書類を整えて提出する必要があります。
行政書士は、これらの様式や記載内容について法的整合性を保ちつつ、都道府県ごとの審査基準に沿った形で整備することが可能です。
特に都道府県によって申請のタイミングが異なるための「仮申請と本申請のスケジュール管理」にも柔軟に対応できます。
医療法人の設立は、診療業務を続けながら並行して準備を進める必要があるため、医療現場の事情に寄り添った実務サポートが不可欠です。
医療の行政書士であれば、以下のようなポイントに配慮しながら対応できます。
・忙しい診療の合間に負担なく準備が進められるスケジュール設計
・保健所・厚生局・法務局など複数機関との連絡・調整
・医療法人の設立趣意や将来像をふまえた事業計画の作成
医療法人設立では、登記(司法書士)、税務(税理士)、社会保険(社労士)など、複数の専門領域にまたがる対応が必要になります。
行政書士に依頼することで、これら他士業との連携を含めた一貫対応がしやすくなり、手続きの漏れやタイムロスを防ぐことができます。
また、設立後の理事会運営・事業報告・役員変更などのフォローアップも継続的に依頼できるため、「法人化して終わり」ではなく、法人として安定的に運営していく体制を整えることが可能です。
このように、医療法人設立を行政書士に依頼することは、制度面・実務面・経営視点からの安心感と効率化を得られる選択だと言えます。
医療法人の設立は、単なる「法人化」ではなく、医療機関の将来を見据えた経営上の大きな選択肢です。
・分院展開や事業承継の選択肢を広げたい
・税務や資金管理の面で法人化の効果を検討したい
・スタッフの福利厚生や組織運営を充実させたい
このような場面では、医療法人設立を前向きに検討するタイミングと言えるでしょう。
ただし、設立には医療法・行政手続き・税務・登記など多岐にわたる準備と専門的な判断が求められます。
だからこそ、制度に精通した行政書士と連携しながら、安心して法人化を進めていきましょう。
当事務所では、医療法人の設立支援から、理事会運営・事業報告・定款変更などの運営支援まで、医療の行政書士として伴走のサポートを行っています。
「法人化をいつ・どう進めるべきか知りたい」
「忙しい診療の中で、どこまでサポートしてもらえるか相談したい」
そのような段階でも構いません。ぜひお気軽にご相談ください。
医師の先生の医療法人設立を、制度と実務の両面から丁寧にサポートいたします。